とくに趣味のない私の楽しみは「散歩」かもしれない。知らない土地や懐かしい場所に着くと時間のかぎり永遠と歩いてしまう。散歩は気晴らしにいいと言われるけれど、歩くうち次々と新しい風景や不思議なものに出会い気が安らぐどころか、妙に冴えてきて良い刺激をもらうことの方が多い。
先日、小国町内をぶらぶらしていると写真の倉と出会った。この辺りではよく見かける浮屋根の倉だが、本来漆喰塗りであったであろう壁面が全てトタンで仕上げられている。補修の際に新しい技術でコストも低い大量生産製品に取って代わられたのだろう。しかし注意してよく見ると、壁頂部の見切りや曲面の細工などはオリジナルを忠実になぞって再現してあり、なんとか物を作りだそうとする熟練の技と野心が伝わってくる。このような新たな「本物」とでも呼ぶべき非凡な知性が、散歩中の風景の中にはごくごく控えめに溶け込んでいるから気が抜けない。
先日、3年9ヶ月ぶりに沖縄に行った。とてもお世話になった建築の大先輩の葬儀に出席し、あとはずっと散歩のような状態だった。一度離れた土地を客観視するように努力したものの、おおらかな環境風土と、生活感あふれる雑多さはあまり変わらない印象だった。それは亡き大先輩から教わった「風土が建築をつくらせる」ということの現れなのだろう。大事なことを教わりました。
みなさま今年もいろんな場面で大変お世話になりました。また来年もゆっくり散歩に出かけますのでその時はご一緒に宜しくお願いします。